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月の光

久しぶりに実家のアップライトを開いた。
いつもはPOPSが中心だけれど、今日はクラシックな気分…。
ベートーベン、ショパン、モーツアルト…。
幼いころに大好きだったメロディに思い切り浸っていたい。

我が家のピアノは奥まった場所に追いやられている。
リビングだと練習中にうるさい…という理由で客間の奥の縁側が定位置だ。

いつの間にか父が足元に小さなストーブをセットしてくれた。
好きなだけ弾け…ということか。

だが、9時を少し過ぎると呼びにくる。
「ひかり、そろそろ…」
月曜日の仕事用の荷物が嵩張ったので、送ってもらう約束をしていた。
早寝の父のこと、どうやらタイムオーバーらしい。

それでも、
「もう一曲だけ」
と言うと
「ああ」
と答えてくれた。
父もたぶん、分かっている。
私が今日、何を弾きたいのか…。

2005年3月21日。
この日、起こったことをつぶさに私は覚えている。
それから数日後の葬儀 逗子教会の礼拝堂に「月の光」が響いた。

「私が死んだら、この曲を葬儀で弾いて欲しい」
母の願いは音大付属高校に通う親戚の女の子によって叶えられた。
ピンクの薔薇に包まれた祭壇に献花が寄せられるとき、その調べはあまりにも美しく、哀しく響き渡った。

「月の光」を弾き終わると、父は口数少なに一人暮らしのアパートまで私を送ってくれた。

大切な人を亡くした想いはいつまでもいつまでも途絶えない。
それは延々と伝え得る音楽の調べにも似ている。
音楽を愛し、人を愛し、「生きていたい」という願いを最期の瞬間まで抱えながら去って逝った母にとって、私という娘がどれほど意味ある存在だったのかもはや分からないけれど…。
これからもずっと、私は今日という日に「月の光」を弾き続けるのだろう。
無償の愛を与え続けてくれた母に、心からの感謝と敬意を払いつつ…。

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コメント

私はピアノが弾けないんです。
ピアノはリビングにあったのですが、
私が練習を始めると必ずと言っていいほど、父は背後のソファに座って新聞を読む。

傍に誰かが居ることに集中できない私が、
「もー、どっか行ってよーっ」と邪見にすると、
「はいはい。聞いてないよー」と笑いながら立ち去る父。

ピアノ弾きたいな…と思うと、
その光景が思い出されて涙が止まらなくなり、
忘れられないんですよね。

>大切な人を亡くした想いはいつまでもいつまでも途絶えない。

投稿: keiko | 2009年3月23日 (月) 23時11分

> keikoさん
お父様との思い出、素敵ですね。
ウチの母は癌が進行してから、
「ひかりのピアノを聴くと眠れる」
と、私のつたない演奏をB.G.M.にリビングのソファでまどろんでいました。

弾けないほどの想い…
天国のお父様にもきっと伝わっていると思いますよshine

投稿: MARIA | 2009年3月28日 (土) 17時49分

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