月の光に寄せて…
「成人式に振袖を貸して欲しい」
とのことで、従姉夫婦&お嬢さんのA美ちゃんが逗子の実家まで取りに来てくれました。
でも、従姉夫婦のところだったら、長女のA美ちゃんのために新しい振袖を揃えてくれそうなものだけれど…って、ちょっと不思議に思っていたのですが…。
A美ちゃんが私の振袖を着たがってくれた理由…。
「大好きなおばちゃん(母)が選んだものだから」
って、泣かせるじゃぁないですかぁ
もちろん、その振袖は生前母が、二十歳を迎える娘のために選んでくれたものです。A美ちゃんは大切な二十歳のお祝いにその振袖を身につけることによって、おそらくは母を偲んでくれるつもりなのでしょう。
A美ちゃんのお婆様に当たる私の叔母は、A美ちゃんが生まれるずっと前に亡くなっています。A美ちゃんにとって、毎年夏休みに遊びに行く逗子のお家のおばさんは、母方のおばあちゃんみたいな存在だったのかもしれません。
そういえば…
末期がんを宣告された母は、自身の葬儀でドビュッシーの「月の光」を弾いて欲しいと願っていました。当時、クラシックピアノからは遠のいていた私には、その願いを叶えて上げる自信がなくて、まだ中学生だったさいたまのA美ちゃんに電話をして頼みました。
そしたら、A美ちゃん、話し半ばで何を頼まれるのか悟っていたようです。
「おばちゃんから言われていたの」
と…。
そうか…、娘のピアノの劣化ぶりを悟っていた母は、
「ひかりじゃ頼りにならない
」
って、密かにA美ちゃんに白羽の矢を立てていたのか…。
恐らくは母のこと、私に「月の光」の件を話した段階で、A美ちゃんに連絡を入れることまで織り込み済みだったのかもしれません。
母がいよいよ危篤となったとき、従姉からの連絡でA美ちゃんが「月の光」を練習したがらないことを知りました。葬儀のためのドビュッシーです。大好きなおばちゃんのことを想ったら、弾きたくはないのです。
それでも…
葬儀の日。教会の礼拝堂に響いたドビュッシーの音色は透明に美しく、献花をする皆様の心を捕らえると同時に天国の母にもその想いが届けられたのだと信じています。妹のMちゃんもフルートで加勢してサンサーンスの「白鳥」を吹いてくれました。
来年1月…
A美ちゃんは成人式を迎えます。深紅の振袖を身にまとったA美ちゃんは恐らくはとても明るくて、清らかで、美しい大人の女性へと変貌を遂げることでしょう。
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