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「たぶん、私、そんなに経験ないよ」
「でも、千佳さん、綺麗でしょう。絶対にあると思う」
「確かに、時夫が初めてだとは言わないけれど」
そこで私は言葉を切った。
「誰かと抱き合うことが、こんなに優しくて暖かいことだなんて、初めて知ったのよ」
時夫の唇が私の唇を包み込む。
「ちょっと苦いや」
時夫が呟く。
「口、濯いで来ようか? 嫌でしょう」
本当は、私が苦さを流したかった。
「ううん、いい」
時夫が応える。
「でも・・・」
「このままがいいんだ。せっかく千佳さんが僕のを飲んでくれたんだもの。濯がれちゃったら悲しいよ」
それで私は仕方なく、苦いままの唇を時夫の唇に重ねた。時夫は臆すことなく、その唇を受け入れる。
今、この空間に他の誰もいらない。
時夫がいればそれでいい。
「ねえ、時夫・・・」
「何?」
「いっぱいして・・・」
「うん」
「嫌なこと、全部忘れられるくらい、いっぱいして・・・」
そこで私は瞳を閉じた。
夜が永遠に終わらなければいい・・・。
そんな風に願いながら。
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